谷口与鹿との想い出 語り部・柳沢雅彦

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  時空を超えて師弟が競演する夢舞台

 男のインターネット写真展には、飛騨の匠たちが精魂こめた屋台 彫刻が揃い踏みしています。しさと優美さの調和⋯⋯いかに当 時の彫り師たちが高度な技術を持っていたかがわかるばかりか、巨 匠の谷口与鹿を目指して切磋琢磨していたことも一目瞭然です。  写真展は、ふるさとの原風景も盛りだくさんです。 飛騨高山の街並みを眼下に見下ろす城山や市街地を流れる宮川で撮 影された鳥や動物、昆虫なども登場しますが、どのタレントも男の カメラに向かって得意げにポーズをとっているように見えます。 小さな体ながら全身からエネルギーがほとばしっています。  「清流の宝石」とも呼ばれるカワセミは、背中のコバルトブルー が色鮮やかです。桜の花びらの隙間から見えるメジロたちのひょう きんな表情が笑いを誘います。高山市の花コバノミツバツツジには 春の女神ギフチョウばかりか、好奇心旺盛なニホンカモシカまで訪 れています。せとオスがメスに食べ物を運んでいるのはヤマガ ラ。子どもたちを散歩に連れていくカルガモのお母さんもいます。  高い木の梢でソプラノ歌手も顔負けの美しい声を披露しているの は日本三鳴鳥のひとつオオルリ。「せの青い鳥」は、わざわざ撮 影のために低空飛行してくれました。カメラの前に立ちふさがって 愛嬌たっぷりに撮影をおねだりするイタチの姿もあります。  与鹿から紹介されて男の前にやって来たのか、いたずら好きの与 鹿の化身なのかわかりませんが、みんなカメラのレンズを意識して いるようです。それぞれが撮影を心の底から楽しみ、元気や活気に 満ちあふれています。  城山や宮川は与鹿や男にとって幼い頃から絶好の遊び場でした。 ふるさと飛騨高山の山や川で共存する生き物は愉快な仲間たちであ り、与鹿と男の胸の内で軽快に踊るアフロディーテでもあります。  もしかしたらインターネット写真展は、出演者たちにとって晴れ の記念写真の場なのかもしれません。どうしてこんな写真が撮れた のかと地元の人たちが聞いても、男は笑っているばかりです。  当の本人さえも自分が撮影したとは思っていないので、まったく 質問に答えようがないのです。  はたして与鹿から受け継いだDNAのわざなのか、与鹿の からくり人形として代わりにシャッターを押しただけなのか。いず れにしろ、そんなことは男にとってどうでもいいことなのです。  彫り師たちは、自我を忘れて彫ることに喜びを感じるように、写 真家の男も自我を忘れて撮影することに喜びを感じます。天職とい うのは、それに没頭しているだけで至福の時間を与えてくれるもの なのかもしれません。  与鹿や男が多大な影響を受けた葛飾北斎の絵手本である「北斎漫 画」にも顔を出すユーモラスな生き物たちの忍び音ばかりか息遣い や鼓動までも、そこかしこから聞こえてくるようです。
続く

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