第14話
極秘の作戦会議
後日、男は谷口与鹿と夢の中で絶対に失敗が許されない競売で確
実に落札するための秘策を一緒に練りました。
どうしても欲しい品を落札するには、ふたつの方法があると与鹿
は話し、二者択一のどちらでいくのかの選択を男に迫りました。
ひとつ目は、あらかじめ誰にも負けないだけの軍資金を調達して
本番に臨む。使いきれないほどお金を持っている資産家さえ後ろ盾
にすれば、鬼に金棒だ。
ふたつ目は、競合する相手を出さない。うまく無風状態を保てれ
ば、いともたやすく欲しい品が手に入る。競売においては、戦う相
手がいないのが理想だ。
与鹿は男から用意できた軍資金が100万円だと聞き出すと
「オレの屋台彫刻だったら上昇気流にさえ乗れば1000万円いく
かも
? だけど今回はオレとお前しか知らない内緒の掛け軸だから、
まったくわからん」と口を真一文字に結びました。
しばし考えるそぶりをした与鹿は、すぐに顔をほころばせて
「それだけの備えがあれば、たくさんお釣りが返ってくるかもしれ
んぞ。安く落札できたら、お前に老舗の料亭で祝い酒でもご馳走し
てもらおうか。まぁ、こんな暢気なことを言ってられるのは競売の
さなかに突如として竜巻でも発生しなければの話
⋯⋯だが」
男は与鹿から竜巻と聞いて、かつて実際に目の当たりにした悪夢
のような光景を思い出しました。
春の高山祭で谷口与鹿の彫刻が飾られた屋台を眺めていた時のこ
とです。観光で訪れた中国人が流暢な日本語で屋台組の人に話しか
けました。「風格があって、とても格調高い屋台ですね。一体いく
らするんですか?」
屋台組の人は、よくぞ聞いてくれたといわんばかりの嬉しそうな
顔をして「1億円!」と威勢よく答えました。いくぶん祭の祝い酒
も入っていたのでしょう。
すると裕福そうな中国人は、すかさず「1億円なら買いたい。ぜ
ひとも私に譲ってください」と。冗談か本気かわかりませんがブラ
ンドずくめの身なりや持ち物から即座に現金で支払う自信と余裕が
、
その場に居合わせた男にも伝わってきました。
慌てふためいたのは、屋台組の人でした。
「いやいや。これは屋台組の宝物だ。国の重要有形民俗文化財にも
指定されてる。いくら出されても絶対に売らないよ」と激しく首を
左右に振りました。
経済大国になった中国を見くびると、酷い目に遭いそうです。カ
ネに糸目をつけず買い漁る大陸の人たちが何らかの情報を嗅ぎつけ
て今回の競売に飛び入り参加してくると困ります。男の落札の筋書
きはひとたまりもなく飛び散ります。
© Masahiko Yanagisawa / SPORTS CREATE