柳沢雅彦 特別インタビュー

~ 月刊ダンスビュウの表紙連載18年間を振り返って ~


今回のインタビューをさせていただく岡本彩香です。
柳沢さん、18年間もの長きにわたりダンス誌の表紙を連載され、どうもお疲れ様でした。 ダンス界からの卒業イコール引退かと誰もが思いましたが、見事に予想を覆しましたね。 伝説のダンス写真家・柳沢雅彦がダンスの撮影をやめて数か月後には他のジャンルの写真で国際的な賞を受賞し、華やかに転身。別の顔を見せつけました。
ダンス誌の表紙を担当されて以来、柳沢さん今まで周囲に対して頑なに「ノーコメント」を貫かれてきましたが、引退した現在だからこそ明かせる事実があったら教えてください。
(※この特別インタビューは3時間にも及ぶ内容を一部だけ抜粋したものです。単行本でないと収録できない量のため、詳細については、あえて省略してあります。ご了承ください。)


Q.いまの率直なお気持ちは?
A.この調子だと死ぬまでやるかもしれないと覚悟を決めていたダンス誌の表紙を円満に卒業でき、重い肩の荷を下ろせました。 10年をひと区切りにしたかったけど、読者から「柳沢さんの表紙じゃなきゃ、もう雑誌を買いません!」と脅され、辞めるタイミングを逃した苦い経緯がありました。 それにしても人生の引き際は難しいもんです。

Q.撮影で一番大変だったことは?
A.ほとんどの写真は競技会の決定的なシーンなので絶対に失敗が許されなかったこと。 最初のうちは未熟さゆえのプレッシャーとの戦いでした。 また汗が額から流れ落ちて目に入るとチクチク痛いのも本当に困りました。 他のスポーツの競技会なら汗止めのバンダナでも何でもつけますが、ダンスの会場ではそんな格好はできません。

Q.表紙の写真ならではの苦労とかもありましたか?
A.写真が良いかどうかを最終的に決めるのは読者の皆さんなんです。 どんなに私自身が満足しても、それと読者の印象は必ずしも一致しません。 どう言い繕っても、売れない雑誌はダメなんです。

Q.読者から寄せられた声は、どのようなものでしたか?
A.私は第三者の客観的な意見を聞きたいと思いました。 男女それぞれ半分ずつ年齢層も幅広く10人の方に毎号モニターをお願いして、発売されたばかりの雑誌について忌憚のないご意見をいただきました。 表紙のダンス写真はとても良いが、ダンサーの体やドレスの上にかぶさったゴチャゴチャした文字が邪魔だ…とか。 よく話を聞くと、鍛え抜かれたダンサーの美しい肢体やため息が出るほどエレガントなドレスが見たいのに見えない…とのご意見でした。 表紙のデザインは本来カメラマンには関係ありません。私に言われてもどうにもならないのですが、それでも読者は表紙を冷静に見て指摘してきます。 わざわざ編集部に直接クレームをつけなくても、みんな陰では言いたい放題なんです(笑)。

Q.読者の声で、もっとも気をつけたことは?
A.私が肝に銘じたのは褒めてくれる人の意見を鵜呑みにしないことでした。 褒められて伸びるのは新人カメラマンだけ。だいたい辛辣な忠告ほど私を熱くしてくれました。

Q.一番嬉しかった思い出は?
A.雑誌が期待通りに売れたこと。月刊ダンスビュウは、よくネット通販の売れ行きランキングでダンス部門の1位に輝きました。 これは社交ダンスや競技ダンスのみならず、バレエやフラダンスやヒップホップなど全部のジャンルのダンスを含めた順位です。 また中古本のマーケットでどんどん値上がりして、最終的に定価の百倍に達した号もありました。

Q.雑誌の発売と同時に読者が反応することもあるのですか?
A. 2016年2月号のダンスビュウは、おかげさまでネット通販分(Amazonと楽天ブックスの両方)が発売日の午前中に完売しました。 ネット通販と書店販売の売れ行きは違いますが、表紙の良し悪しがストレートに反映されるのはネット通販なんです。 最近は雑誌を手に取らず、ネットで表紙のイメージだけ見て衝動買いする人も大勢いますからね。 さすがにあの時だけは私が表紙を担当して以来、初めて完全燃焼を実感いたしました。

Q.一番ホッとしたことは?
A.無事に後進のカメラマンにバトンタッチできたことでしょうか。 もちろん写真の作風は私と全然異なりますが、どう撮ろうと、私に続くカメラマンの自由です。 飛ぶように雑誌が売れれば、何も問題ありません。読者のハートを掴めば、それでいいんです。

Q.読者が離れてしまわないか心配する声もあったのでは?
A. 極端な話、これまでの読者が雑誌の購読を止めても、新しい読者が同じ数だけ湧いてくれば、その雑誌は安泰です。 それどころか右肩上がりで部数を拡張していくかもしれないですし…。 八方美人は、いずれ破滅します。人生、何かを捨てないと新しい何かは得られません。 表紙は雑誌の顔ですから、編集長ばかりか担当カメラマンも売れ行きに対して責任重大ですよ。

Q.これから一番やりたいことは何ですか?
A.今まで私を必要とする人たちの夢を叶えることだけに全力を尽くしてきました。 特にダンスについては雑誌が売れる表紙を撮ることに必死で、振り返ってみると自分のために何ひとつできなかったような気がします。 だから、これからの写真は、誰かの顔色を窺うのではなく自分の好きなものを好きなように撮ってみたいです。 瞬間最大風速の売り上げを記録した写真だからといって、永遠に高い評価を得られるとは限りませんからね。










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