語録 写真家・柳沢雅彦 世界

21世紀を迎え、いま写真界では銀塩とデジタルとの間で激しい綱引きが繰り広げられています。これほど「写真とは何か?」が問われている時代はなかったと思われます。 写真家・柳沢雅彦が1つのテーマを追いかけ写真集を上梓するまでの心の葛藤を綴る「語録」には、新しい時代を切り開いていくためのヒントが隠されているかもしれません。その走り書きの一部を本邦初公開いたします。  (企画・構成/西野かおり)
写真集「DanceダンスDance」(1996.11.1発行) のころ
「スポーツカメラマンでありながら、ずっと僕はスポーツカメラマンを脱皮したいと、ひそかに願い続けてきた。そして今、そのチャンスがようやく巡って来た」

「大変なことになった。TVがスポーツ番組においても本格的にクローズアップ手法を取り入れ始めた。これからスポーツカメラマンを目指す人は、よほど覚悟してかからないと…。でも今の危機的な状況を自覚している人が、はたしてどれだけいるだろう?」

「いろいろなスポーツを撮ってきたけど、(競技)ダンスほど美しいスポーツはない。僕は一瞬にして、その虜になってしまった」

「ダンスの世界に初めて足を踏み入れてから1冊の写真集を出すまでに5年もかかった。もちろん、その間もさまざまなスポーツの決定的瞬間を雑誌などで発表し続けてきたけど、ずっと僕の魂はダンスに奪われていた」

「ダンスは、スポーツというより恋愛ドラマだ。自分たちの恋愛がいかに美しく素晴らしいかをフロアの上でアピールし競い合う」

「僕は小さいころ文学少年だったので世界じゅうの恋愛小説もむさぼり読んだけど、これ(ダンス)ほど灼熱のドラマはなかったような気がする」

「恋愛ストーリーの激しさに、撮影が終わるたびに目眩(めまい)がする」

「男には2つのタイプがある。綺麗な女をつれて歩いて自慢したがる男と、女を綺麗にするために惜しみない努力をする男と…。どっちの男を選ぶかは、いつも女の自由だ」

「ダンスにおいては、いかに女性を美しく演出するかが男性の腕の見せどころだね」

「今の僕にとって、どんな映画やTVドラマよりも、はるかにダンスのほうが刺激的だ」

「こんなに(ダンスの)甘美な世界にどっぷりつかっていると、現実の生活において不感症になってしまわないか心配だよ(笑)」

「ダンスの世界は、ひと言で悦楽の園である」

「(僕のスポーツ写真は女性よりも男性に人気があったのに)ダンスの写真を撮り始めたら、男性よりも女性に人気があるらしいことに初めて気づいた(笑)」

「ヘアヌード全盛の今、しっかり衣装を身にまとった写真を撮る。しかしセクシーさにおいては負けないつもり。秘すればこそ花…なんだ」

「エロスには、見えるエロスと見えないエロスの2つがある。ダンスは見えないエロスの代表なのかもしれない。ほとばしるエロスという点では極上であることは間違いない」

「巷に氾濫するヘアヌードを見ても、ちっとも興奮しない。いつも、それ以上に濃密な大人の愛の世界にどっぷりつかっているから…」

「ダンスのパートナー同士は夫婦でなくてもセックスするの? と聞かれたので『ダンスはセックス以上に激しいセックスだ』と答えておいたよ(笑)」

「これまで、どんなにほめられても自分の写真に自信がなかった。ただ被写体がいいだけだと、つねづね思っていた。写真なんて、しょせん森羅万象の複写にすぎないと考えていた。 しかし国際的版画家の池田満寿夫さんにほめられて、ちょっぴり自信が湧いてきた。もしかしたら写真も立派なアートなのかな?」







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